2024.6.20

【期間限定公開】変革期を迎えている中堅ホール企業 業界の未来は思っている以上に明るい

「セテウスの船」をご存知でしょうか。漫画・TVドラマではなく、パラドックスのほうです。セテウスはギリシャ神話に登場する王で、国民的な英雄。使用していた船には30の櫂(かい)があり、老朽化とともに新しい櫂に変えられていきました。「すべての部品が新しいものになったとき、それは元の船と言えるのか」というのが「セテウスの船」です。

これは、会社や組織にも当てはめることが出来ます。長年存続していれば創業当時のメンバーは誰もいなくなりますし、業態や企業理念も変わるでしょう。会社名だけは同じというだけで、元の会社と言えるのでしょうか。

今回は、変わりつつあるホール企業、その他の企業、そして中途採用を考察したいと思います。

大手ホール企業だけでなく中堅も会社の舵を切り始めた

最近、大手ホールの一時代を築いた店長が退職しました。中途採用で入社し、バリバリに仕事をし、時代が時代なら「モーレツ社員」と言われるような働き方をしていたのですが、辞表を提出したのです。

完全オフの日でも店舗に顔を出し、ホールコンとにらめっこ。そういう働き方が本人にとっては当たり前でした。経営側は、コンプライアンスの観点からもしっかり休んでほしいし、やり手で影響力も強いので、若手社員に手本を示してほしかったようですが、それは“本人の店長像”と異なり、価値観が合わないと受け止められてしまったのです。

組織は大きく進化し、マネージャー層も世代交代の時期。若い人材のマインドに合わせるように、今はコンプライアンスや労働環境が優先ですから、だいぶ変化があったと言えます。一方で中堅企業は、生き残りをかけて今まさに変わろうとしている真っ最中です。

これは、中途採用を見れば明らかで、今年の4月は直近5年の同時期のなかで最も採用活動が活発でした。「やってやる」という強い意志が見て取れる企業が多数あるのは、中途採用によって会社としても刺激を受け、他社のノウハウも糧にし、活性化を図ろうとしているからでしょう。

経営者が代替わりし、それを機に方針や企業理念を変更したところもありますし、特別な理由はなくても時代の流れに沿って会社の方向性を変えたところもあります。舵を切った会社を「元の船ではない」と思う人は辞めざるを得ず、それは企業としても辛いことではありますが、存続のためには致し方ないと割り切っているようです。

社会経済は移り変わる それに伴う影響力は絶大

さて、ホール以外の企業にも目を向けてみましょう。ここ数年の間に、大企業がリストラに踏み切ったというニュースが何度もありました。自動車メーカー、パソコンや家電メーカー、保険や金融の会社まで、様々な分野の有名企業が、大幅に人員を削減しているのです。

遊技機メーカーにおいても大幅な人員削減が行われたことは記憶に新しいですが、時代の変化に適応すべく「企業存続のために事業変革を」という決断なのでしょう。

また、人手不足倒産に目をやると、2023年度は313件あり、前年度比2倍強。建設業が94件、物流が46件で、この上位2業種でほぼ半数を占めています。時間外労働を規制する「2024年問題」が大きく、体制を変えられない企業には厳しい未来が待っている可能性が高いはずです。

パチンコ業界にとっても対岸の火事ではなく、これまでに人材難によって閉店や撤退となった例はあります。その多くは労働環境が原因で、人が定着せず、慢性的な人手不足がサービスの品質を落とし、それが客足と売上に影響、業績悪化で環境整備や人材投資の優先度はますます低下し、さらなる衰退を招く、という負のスパイラルに陥るパターンです。

一方、人材難だった企業が豊富な“人財力”で成長・発展を実現させている例もあります。その多くは環境整備から着手し、人材集客力と定着率を改善出来たことで“組織戦力”が大幅に上がったというもの。数年にわたる努力が必要なのですが、この間の課題は「人員・体制と環境・制度が安定するまでの業務工数の分配」で、失敗すれば離職率の上昇は必至。成功のためにはミドルからハイキャリア層の体制を厚くするのが王道で、中途採用で補強して“負荷”を分散しなければなりません。

業界外に出て実感する「パチンコ業界=青い芝生」

最近は、他業種に転職したもののホール企業に戻ってくる“カムバック人材”が増加しています。彼らに話を聞くと、「拘束時間が長い」「休みが取れない」「パチンコ業界のほうが良かった」など、労働環境と給与のバランスの悪さを理由とする声が目立ちます。これに加えてよく聞くのが、「たとえ業界を変えても、先が見えない不安感は変わらない」という声。社会経済の動向が各業界に影響を与えるのは当然で、良くなるところもあれば悪くなるところもあります。転職の心得的なことは割愛しますが、「業界があなたをどうにかしてくれるわけではない」というのは、すべての業界転職に共通することです。

今やホール企業は、コンプライアンスや労働環境に気を配りながら、物価指数を踏まえ給与水準の見直しを図るなど、左右の櫂をバランス良く使いながら進んでいる状態だと言えます。少し褒めすぎかもしれませんが、多くの企業が頑張っていることは間違いないでしょう。

新紙幣の対応など、簡単ではない課題があることも事実ですが、採用熱が高まっていることは、それに立ち向かってより良い会社に変化する決意表明と捉えてもいいはず。「セテウスの船」に乗るかどうかは個人の判断ですが、なかなか優秀な船だと私は思っています。

筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。

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